HOME > 高次脳機能障害
「高次脳機能障害」は、脳の持つ高度な知的活動に障害が生じる病態をいいます。
そもそも脳には、呼吸や循環などの「生存に不可欠な機能」、視覚や聴覚などの「基本的な機能」の他に、より高度な知的活動を行う「高次の機能」が備わっています。このような「高次の機能」に障害が生じることを「高次脳機能障害」といいます。
ここでは、交通事故により高次脳機能障害となった場合の損害賠償請求について詳しく解説いたします。高次脳機能障害と診断を受けている場合はもちろんですが、高次脳機能障害の診断を受けていないとしても、もしここで説明するような症状があるなどすれば、必ず弁護士に相談されることをお勧めいたします。
高次脳機能障害によって引き起こされる症状は様々ですが、以下のような症状があります。
高次脳機能障害は、高度な知的活動の障害であり、単純作業などには支障が生じないこともあり、一見して明らかには分からない程度の症状になることもあります。そのため、医師から見ても、診察時に、患者が高度な知的作業を行うこと自体がほとんどないため、よほどコミュニケーションに支障がない限りは高次脳機能障害があることに気付けないことがあります。つまり、高次脳機能障害は、医師でさえも見落とすことのある後遺症といえます。
交通事故により高次脳機能障害となった場合、その損害賠償責任は極めて重いものとされます。高次脳機能障害の損害項目として、大きく次のものがあります。
ここでは、高次脳機能障害において特に重大な損害とされる②、③及び④について詳しく解説し、交通事故により通常問題となる①治療費、付添費等については「損害賠償」のページで詳しく解説していますので割愛します。
この③、④及び⑤の損害は、高次脳機能障害により後遺障害等級が認定されることにより請求できる損害賠償金であるため、高次脳機能障害の後遺障害等級について詳しく把握しておくことが重要です。
交通事故による高次脳機能障害の後遺障害等級は1級から9級に該当します。以下、後遺障害の等級と基準を一覧にしました。
等級 | 基準 | 補足 |
1級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの |
2級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、一人で外出することが出来ず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている 身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことが出来ても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことが出来ないもの |
3級 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声かけや、介助なしでも日常の動作を行える しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
5級 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
7級 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
9級 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの |
「常に介護を要する」と「随時介護を要する」の違い
後遺障害等級1級と2級の区別は、常時介護か、随時介護かにより区別されていますが、「常時」と「随時」の違いは非常に曖昧と言わざるを得ません。そのため、後遺障害等級1級か、2級かの判断は専門的な知見に基づく判断が必要であり、その際には、過去の裁判例や労災保険の基準などを参照することになります。
後遺障害等級が1級か、2級かにより、最終的な賠償金が1000万円以上も異なることがあります。既に重度の高次脳機能障害が残存した場合は必ず弁護士に相談して適正な賠償金を得ることが重要といえます。
高次脳機能障害の慰謝料としては、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料が問題となります。
入通院慰謝料とは、入院期間と通院期間に応じて支払われる慰謝料であり、入院や通院をしたこと自体に対する精神的苦痛への賠償金といえます。
一方、後遺障害慰謝料とは、交通事故により後遺障害が残った場合に支払われる慰謝料をいい、1級から14級までの等級認定の結果に応じて慰謝料額が決まります。
たとえば、高次脳機能障害で24時間の介護を要するなどし、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」として後遺障害1級が認定された場合には、後遺障害慰謝料が自賠責基準では1600万円となり、弁護士基準では2800万円となります。
この自賠責基準とは、最低限の保証であり、実際に適正な賠償額を得るには弁護士基準によらなければなりません。しかし、加害者側の保険会社は弁護士基準よりもはるかに低い金額で示談するよう求めてきますから、その保険会社の提示額のまま応じるようなことは決してはいけません。
我々弁護士は、後遺障害慰謝料を弁護士基準で支払うよう求め、保険会社も弁護士から請求を受けた時にはそれに応じるようになります。そのため、後遺障害慰謝料の額は、弁護士に対応を依頼するだけで大幅に増額することが非常に多いです。高次脳機能障害の慰謝料請求は必ず弁護士に依頼されるべきといえます。
逸失利益とは、高次脳機能障害にならなければ将来働いて得られたはずの利益をいい、次のような計算式により算出されます。
①被害者の方の年収の基準値(一般には事故前年収)
×
②労働能力の喪失率
×
③労働能力喪失期間(一般的には67歳―症状固定時年齢)に対応する一定の係数(ライプニッツ係数等)
例えば、高次脳機能障害で後遺障害等級1級とされた場合、被害者は労働能力を100パーセント喪失するとされるため、年齢や収入等によって、逸失利益は非常に高額になります。
なお、ライプニッツ係数とは中間利息控除するための係数のことを指します。逸失利益は一括で前払いしてもらうため、今後発生するであろう期間における利息も一緒に受け取ることになるため、この利息を民法上の法定利息年5%で計算されることになっています。
高次脳機能障害の場合、将来の介護の為に様々な費用が必要になり、特に問題となる項目としては次のようなものがあります。なお、これらは、高次脳機能障害により介護を要する場合の費用であるため、特に後遺障害等級1級又は2級の時に問題となります。もっとも、3級よりも低い等級の場合も、症状に応じて介護に必要な費用が認められることもあります。
将来の付添費とは、ご家族が被害者の介護にあたること自体に支払われる賠償金です。実務では、例えば、高次脳機能障害で後遺障害等級1級とされた場合、職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円という基準が参考にされており、事情により増額することもあるため、将来の介護費用はかなり高額になることが一般的です。
また、将来の介護雑費とは、タオルやおむつ代、排せつに必要な医療器具代などの消耗品等の費用として支払われる賠償金です。実務では、入院雑費としては1日1500円を基準とされますが、事案ごとに個別に検討する必要があります
なお、将来の付添費と介護雑費は、生存期間に対するライプニッツ係数をかけることで算出されます。
介護器具等購入費とは、例えば、介護ベッドや介護用浴槽、介護用自動車などの購入費として支払われる賠償金です。また、家屋等改造費とは、例えば、家屋をバリアフリーにするための費用や転居費用、昇降リフトの設置費用として支払われる賠償金です。
そもそも高次脳機能障害とは、脳に重大な損傷が生じたことにより高度な知的活動に障害が生じるものですから、高次脳機能障害の後遺障害等級の認定の際には、脳に重大な損傷が生じているかどうかと、高度な知的活動に障害が生じているかを判断することになります。その際には、次のような要素等を考慮して判断されることになります。
高次脳機能障害が生じる多くの場合は、事故後に意識障害が生じるケースとされます。そして、その意識障害の程度としては、重い意識障害(昏睡・半昏睡状態)が6時間以上あったか、軽い意識障害が1週間以上続いたという程度の意識障害が求められています。このような程度の意識障害が生じている場合には、脳に重大な損傷が生じていることが多く、その結果として、高次脳機能障害が生じることが多いとされます。
意識障害の他にも、診断書に記載されている傷病名やMRIやCTのような画像所見も、脳に重大な損傷が生じているかどうかの判断において、非常に重要な資料となります。
例えば、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷、脳挫傷などの傷病名が記載されている診断書は、医師が脳の損傷を確認したことを示すものとして重要な資料となります。また、MRI画像やCT画像からは、脳内の出血の有無やその程度など、脳の損傷それ自体を確認することができるため、非常に重要な資料となります。
高次脳機能障害は高度な知的活動の障害であるため、これについて、被害者の家族などから被害者の日常生活の支障等をまとめた報告書が重要な資料とされます。この報告書は「日常生活状況報告書」という書式にまとめられることが多いですが、それに家族の陳述書などを添付することも重要です。そして、その記載においては、事故直後から症状固定までの被害者の障害の程度やその経過などを可能な限り具体的に記載することが重要になります。
例えば、「日常生活状況報告書」には、いくつかの定型的な質問項目がありますが、その中でも特に気になる項目について、具体的な出来事を記載するなどすることがあります。その一例をあげるとすれば、定型的な質問項目には「円滑な対人関係を保っていますか。」という質問がありますが、それが保てていないという答えであれば、その具体例として、友人や親族とのトラブルについて具体的な状況などを陳述書などにより説明を加えることが必要です。
高次脳機能障害についての医師の所見が重要であることはいうまでもありません。
医師の所見は、「神経系統の障害に関する医学的所見」とか、「頭部外傷後の意識障害についての所見」などにより示されることになりますが、その記載内容が極めて重要になります。例えば、「神経系統の障害に関する医学的所見」には、画像所見の結果や神経心理学的検査の結果などが記載されますが、その記載は非常に重要な価値を有しており、その記載が家族等の報告書と矛盾しているとか、家族の報告内容を確認するための神経心理学的検査の結果の記載がないなどの場合、家族等の報告書の価値も減退することになります。
ここにいう、神経心理学的検査は様々な検査がありますが、知的活動の障害の内容に応じて適切な検査を受けることが大切です。例えば、言語機能に関する障害が疑われる場合には、「標準失語症検査」や「WAB失語症検査」などの検査を受けることになり、遂行機能に関する障害が疑われる場合には、「WCST」や「FAB」などの検査を受けることになります。適切な検査内容についても、専門的知識を要するところであるため、弁護士に相談されることをお勧めいたします。
交通事故の高次脳機能障害は、後遺障害に該当するか否かについて大変専門的な医学的及び法的判断が求められます。とりわけ、高次脳機能障害が比較的最近になって問題とされ始めた後遺障害ということもあり、その主張立証は先端的なテーマであるということもできます。そのような難解な後遺障害をご自身で対応するというのは、特に、様々なストレスのかかる事故後の状況を踏まえると、到底容易なことということはできません。そのような対応については、やはり弁護士に一任し、被害者の方やそのご家族としては、その治療に専念されることが必要というべきと思います。
また、弁護士は、そのような高次脳機能障害の後遺障害認定に長けていますから、交通事故のむち打ちでお悩みの方は、一度弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
当事務所には、現役の医師の弁護士が所属しており、「高次脳機能障害」という難しい医学的判断が求められるケースに非常に強みを持っています。高次脳機能障害が後遺障害と認められるか否かは先端的な医学的及び法的知識を正しく踏まえ、客観的資料による主張立証を尽くすことができるかにかかっています。当事務所は、そのような医学的な専門性を有しているのみならず、元裁判官の弁護士が所属していることなどから、高次脳機能障害に該当することの主張立証を得意としています。ご自身ではどのような資料を提出するべきかなどの判断をすることは容易ではなく、その判断を誤れば、本来であれば後遺障害と認定されるべき高次脳機能障害も後遺障害と認定されないということもあります。
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